株式会社LIXIL
LIXIL Advanced Showroom

屋外排泄が当たり前の地域にトイレ文化を根づかせる ~LASサステナビリティサポーターが感じたSATOが照らす希望~

はじめに

日本から遠く離れたフィリピン、セブ島。南国リゾートとしても有名です。
急速な経済発展により整備が進んでいる地域がある一方、取り残されて以前と変わらない生活水準で暮らしている地域があります。そこには、衛生環境の悪さという大きな課題が立ちはだかっていました。開発から取り残された地域に設置されているのは、LIXILが途上国向けに開発した簡易式トイレシステムSATO。LASサステナビリティサポーターの山本さん、萩原さん、山﨑さんが、LIXIL SATO事業部の下條さん同行のもと現地を視察してきました

ソーシャルビジネスモデルとしてのSATO

SATOは、LIXILが製造するのではなく、現地のパートナー企業とライセンス契約を結び製造・販売・施工・保守を現地で行うことで、その地域の新しい雇用の創出に貢献しています。
ここセブ島の場合、マニラの事業者が製造し、その関連会社がセブ島で販売し、それを購入する会社やNGOが施工・保守を行っています。今回は販売店と施工・保守をしていただいているNGOを訪れました。

現地入りしたのはフィリピンの乾季が終わる頃。
日本の真夏と同じ強い日差し、むしむしした湿度の中で、最初に訪問したのはSATO販売店です。

販売店の方々にSATOについて話を伺うと、
「社会的に価値が高く、かつ会社としても新しい販路拡大の可能性を秘めた魅力的な商品です。」
と、継続的に販売を考えていることが感じられました。
LASサステナビリティサポーターの3人が気になったのは、自分たちが所属するショールームで展示している和式タイプではなく、洋式タイプのSATOばかりだったことです。話を伺うとフィリピンでは和式タイプではなく洋式タイプがポピュラーということです。国や地域によってトイレも形を変えていくようです。インドネシアのほうに行くと和式タイプが主流ということで、現地文化に合わせた戦略の必要性を感じながら、たくさんのSATOが積まれた倉庫を見学させていただきました。

今回、現地に訪問したメンバーが販売店からSATOを購入してNGOに寄付を行い、NGOから地域に設置していただく機会をいただきました。LIXIL Advanced Showroomとして、視察先の販売店で、実際に販売しているSATOを10台購入しました。そして購入したSATOが入ったダンボールを車に乗せ、山岳地帯を越えて視察地域に向かいます。
照りつける日差し、暑さ、長時間の移動、そしてトイレの使用可否も分からない場所への訪問とあり、飲み物にも細心の注意を払う必要があります。視察メンバーはコンビニで購入した大容量の飲み物をリュックに詰め込んで車に乗り込みました。

日本ではない、知らない、遠いどこかの国の話

屋外排泄とは、屋根がない、壁がない、鍵がない、整備されていない場所で用を足すこと。
言葉の意味は理解できますが、実際に何もないところで用を足すことの本質的な問題は何なのでしょう。屋外排泄の問題とは・・・

・土壌や水が不衛生な状態になる可能性が高く、そこから感染症などに繋がる
・女性の生理への対応が困難
・人目につかない場所まで用を足しに行く危険(性的暴行、動物から襲われるなど)
・尊厳の欠如。性別や年齢に関わらず人に見られたくないものが見えてしまう

日本ではほとんどの場所に公衆トイレがあるため、想像が難しいところです。
視察地域へ向かう道中、一行が車窓を眺めていると、左手にはキレイな海と整備された素晴らしい橋、立派なホテル等の発展したリゾート地帯が見える一方で、右手にはスラムという貧富の差をリアルに感じる場所を通り抜けます。同行した現地ガイドによると、このあたりのスラムにも本当はSATOのようなトイレが必要であり、都市部でもスラム街などでは屋外排泄が当たり前でトイレ文化が普及していない現状とのことです。

山岳地帯に入り車を1時間半走らせた後、視察メンバーはセブ島リゾート地帯の反対側、トレド市を拠点とするNGOのみなさんと合流し、購入したSATO10台を寄付させていただきました。NGOの取組み、歴史等をひととおり教えていただいた後、山岳部にある視察先に向かいます。

舗装された道から、気が付けば土だらけのでこぼこ道に変わり、周りは生い茂った森、切り開かれて放置された空地、そして捨てられたゴミを漁っている野犬、そんな場所で車を降ります。
大きな犬と放し飼いにされたニワトリが数羽、そして、どこからが家でどこからが森かの境目が判別できない集落です。しかしすぐに、家と家の間に水色のキレイな建物が目に入ってきました。
これこそ、SATOが設置された公共トイレだったのです。

想像を超えていたSATOの姿

森の中にあるキレイな水色の壁のトイレ。
案内をされ中をのぞくと、床にはタイルが張られ、足元にはマットも置かれています。
青いプラスチック製の洋式トイレ、SATOです。
複数の家族で1台のSATOを使用しているとのことですが、とても清潔に保たれており、日本の公共トイレよりキレイかもと思うくらいでした。

「すごい!」

想像よりも遥かに清潔に保たれている姿を見て、全員が感嘆の声をあげました。
建物はしっかりした造りで、床はタイル張り、そして安定感のある洋式タイプのSATOです。
「キレイ、こんなにしっかり整備されていてびっくりしました。」
「壁や、建付けがしっかりしていますね。」
「ニオイってどうですか?」
とニオイも交代して確認しましたが、ニオイは全くしませんでした。
換気口もしっかり機能しています。
SATOを使用する際に必要な水も、貯水タンクに貯めた雨水を活用しています。
雨水の貯水タンクの他、浄化槽など、必要な設備が周囲にあります。SATOというトイレ単体ではなく、トイレを使い続けるための周囲の環境も整備されていることがわかりました。

現地の女性に話を伺うと、
「これまで屋外で用を足すことが当たり前だった私たちにとって、このような屋根がある個室のトイレで安心して用を足せることは大きな変化であり、とても満足しています。家の周囲もキレイになり、ハエなどが飛び回らなくなったことも含め、衛生環境の改善を実感しています。」子どもを世話しながら、女性は笑顔で答えてくださいました。
実際に設置・保守を行っているNGOの方からは、
「私たちは今、地域の架け橋となってSATOトイレの設置やSATO Tap(手洗いステーション)の展開を行っています。今後設置地域をさらに増やしていき、衛生的なトイレの提供だけではなく、トイレを使うことを習慣化していければと思います。もちろん、もっと先には日本のトイレのような衛生環境をみなさんに提供したいと思っています。」と、さらに次に思い描く理想の未来も伺いました。
現地の女性、NGOの方の話を聞き、視察している全員に笑顔がこぼれます。

※1 SATO Tap 衛生的な手洗いを実現するため、LIXILが低価格でシンプルな構造の手洗いソリューションとして作成したペットボトルと連動した簡易手洗い設備。

今のトイレ環境に満足していると話してくれた住民の女性とNGOに、山本さんが質問しました。
「トイレが満足できる状態になった今、他に良くしたいことはありますか?」
住民の女性は、改めてトイレが設置されたことへの感謝と共に、シャワーも良くなると良いね、と笑いながら答えてくださいました。
というのも、シャワーは庭に置いてあり、雨水を溜めて浴びるのだそうです。SATOトイレと同じように女性や子どもたちが安心して使えるようになるともっと素晴らしいことだと言います。
その後、視察メンバーもあらためてシャワー環境を確認し、現地ガイドからも説明を受け、女性の話の意味を理解しました。
これが現実なんだ、と。心から安心できる生活環境を作るにはまだまだ時間がかかりそうです。
それでも、住民の女性の笑顔は皆の心も笑顔にしてくれました。

みんなを笑顔に。今日の笑顔が未来を創る

その後もいくつかの集落を訪れ、SATOが設置された公共トイレを視察させていただきました。どの訪問先の住民の方も、子どもたちも笑顔で出迎えてくれました。そして、トイレを見学している視察メンバーを見て、何をしているのだろう?と興味津々な様子で見守ってくださり、スマホで写真を撮ろうと話しかけてくれる子どもたちもいました。トイレはないですがスマホは持っていらっしゃるんですね(笑)

いろいろな驚きと発見を繰り返しながら、いくつかのSATOが設置されたトイレを視察させていただいた後、トレドの山間部からセブ市への帰路につきました。ホテルに戻り、視察メンバーは改めて、今日見たこと、自分の感じたこと等を話し合いました。
「現地の人が笑顔で、トイレができて本当にうれしい、と言ってくれたことが本当に誇らしかったです。」山﨑さん
「日本は恵まれている。それを改めて感じさせてもらいました。」山本さん
「多くの人に、衛生課題の現状を伝え続けることが重要だと感じました。 」萩原さん
「私は、フィリピンの現状、都市部は整備されていても30分いくと屋外排泄をしている人たちがまだいること。そしてその生活空間を皆さんに体感していただけたことが重要だと思います。」下條さん

1日を振り返り、全員が感じたことは、トイレを使用する文化を定着させることの大切さと難しさでした。ただトイレという設備を準備するだけでなく、屋外排泄に慣れた方たちがいつでも安心して用が足せることが当たり前になる環境を作ることの大変さをひしひしと感じていました。設置場所を何度も訪問し、トイレを使用する必要性を住民たちに説明し、保守をしているNGOの方々の話を思い出しながら、今回の視察を振り返りました。
今回お世話になったNGOが今までに設置したトイレは50台ほど。もっとスピード感をもって、屋外排泄をせざるを得ない地域の環境整備を行う必要はありますが、設置だけに留まらずトイレを使用することの大切さの普及、その文化を醸成していくために丁寧に進めていく必要があるとおっしゃっていたことが印象的です。現地の販売店やNGOの方たちのおかげで、多くの方にSATOトイレを提供できていることを実感しました。

視察メンバーは、自身のショールームに戻り、仲間やお客さまに伝えることで、この活動の実際の姿や目的、意義をもっともっと多くの人に理解してもらうために伝えつづけることをそれぞれが決意しながら、改めて視察した村の方々、子どもたちの笑顔を思い出していました。

私たちが寄付をした10台のSATOも、今後セブ島のどこかに設置され、誰かの笑顔を創っていくでしょう。
NGOからのSATOの設置完了の報告を心待ちにしつつ、多くの方に現状を伝えること、それが今の私たちに出来ること。
小さな一歩かもしれませんが、こうした活動がより良い社会を創り、より良い未来を創っていくと信じています。

LIXILのSATO事業
LIXIL X 【SDGs】グローバルな衛生課題の解決|現地最前線からの声